ビジネスにおける意思決定とそれを支援する情報とは(1)

私は20世紀の終わりから21世紀の初頭という、インターネット、というよりもブロードバンド普及の最中に市場調査ビジネスに従事した。
市場調査とは何か、私はこう思っていた。
「企業活動、特にマーケティング施策立案における意思決定支援のための情報創出・提供」
だから市場調査はなによりも意思決定に役立つことを最優先して設計されるべきだと考えた。

これは市場調査(マーケティングリサーチ)のみならず、社会調査においても共通の指針であると考える。
なぜなら社会調査も最終的には福利厚生水準を高めることのできる社会的施策が立案、施行されることが目標とされるべきだと思うからである。
ただし、その施策を行う主体が政府・自治体(以下「行政」と記す)であったり、施行に伴うコスト負担は納税者で広く負担されるということ、また施策に対する評価は公正・公平に行われなければならないという意味で必要とされる手続きが企業活動とは異なることは事実である。


では、どのような意思決定が行われることが目指されるべきなのか。
この回答はいたってシンプルである。
「企業に利益をもたらすこと」
利益をもたらすためには施策の結果生み出される財(商品とは限らない)が市場に受け入れられる必要がある。

※市場と社会との違いは市場調査と社会調査との違いそのものである。

では、利益がもたらされる条件とは何であるのか。
それが分かれば誰も苦労しないわけで、意思決定はどうしても不確実性の下に行われる。
その不確実性を少しでも縮減するために情報を入手する=市場調査を実施するわけであるが、、、、、

はい。ここで堂々巡りのループに入ってしまった。
だが、少なくとも「不確実性を縮減する」という表現が導き出されたことで、一つのことが明らかになった。
それは、

企業活動において行われる情報収集は、これから企業自身がとる施策に対する市場(顧客)の反応を
あらかじめ予測し、不確実性を縮減することにある

ということだ。
このことにより「社会調査」と「市場調査」の違いはさらに明確になる。
なぜなら、社会調査は行政が執行する施策を立案するために行われるが、行政の執行する施策は基本的に納税者の多数が納得するのが前提である。
つまり、多数(もしくは過半数)が納得することが分かっていることを行うことが"前提"なのだから、そこには不確実性は存在しない。
社会調査は「事実・背景の顕在化」のために行うのであって、「わからないけどそうかもしれないこと」を前提とした施策を行うにあたり、「そうかもしれない確率」をできるだけ高める(=不確実性の縮減)ために行うわけではないからである。

このことは市場調査業に従事する者には以外に認識されていないように思える。
だからこそ、21世紀に入って顧客企業の要望が少しずつ変質し、もっと言うならば官公庁の発注する調査設計と民間企業が発注する調査設計との間の差異が広がり、新興インターネット専業調査会社の業績が伸びているのだ。